日常的に漢字を使っていると、「あれ、この字って本当にこう書くんだっけ?」と、ふと立ち止まってしまうことがありますよね。特に、旧字体や異体字の存在が関わってくると、混乱してしまう人も少なくありません。今回は、そんな中でも「見た目はほとんど同じなのに実は別物」という興味深い漢字、「兼」にスポットを当ててみましょう。
一文字に潜む二つのかたち:「兼」と「」
一見すると、シンプルな構造に見える「兼」という漢字。しかし実は、似て非なる“もうひとつの兼”が存在するのをご存じでしょうか?それが、異体字である「(けん)」です。普段私たちが使う「兼」は新字体であり、「」は古い書き方、つまり旧字体や異体字として分類されます。
これらは使われる場面や目的が異なるため、混同しないように注意が必要です。

以下の表で、それぞれの特徴を比較してみましょう。
表記 | 上部の構造 | 用途例 |
---|---|---|
兼(新字体) | 「ノ」+「干」 | 教科書、新聞、日常文書、役所の届出など |
(旧字体・異体字) | カタカナの「ハ」に似た形状 | 戸籍、古文書、歴史的な人名や地名 |
普段目にすることは少ないかもしれませんが、旧字体「」は歴史的資料や一部の家系図、古い戸籍などでは現役で使われていることもあります。

特に、公文書や家系調査などで古文書を扱う人にとっては、避けては通れない漢字です。
パソコンで「」を入力・表示するには?
さて、こうした旧字体や異体字をデジタルで扱うには、少し工夫が必要です。通常の変換では出てこないことが多く、フォントや入力方法を工夫することでようやく表示・使用が可能になります。

ここでは、パソコンで旧字体「」を使うための4つの主な方法をご紹介します。
方法①:旧字体対応フォントを活用する
まず基本となるのが、文字の表示に対応したフォントを選ぶことです。日本語フォントの多くは旧字体を網羅していないため、表示させるには特定のフォントを導入する必要があります。
フォント名 | 表示可能か | 備考 |
---|---|---|
Batang(バタン) | ○ | 韓国語フォント。多くの旧字体に対応。 |
Malgun Gothic | ○ | 韓国語向けだが旧字体が表示される。 |
メイリオ / MS ゴシック | × | 標準的な日本語フォントでは未対応。 |
ただし、対応フォントで表示できても、他人に送る際には注意が必要です。

文字化けを防ぐためには、PDF形式で保存・共有するのが無難です。
方法②:辞書機能で単語登録を活用
WindowsやMacの日本語入力ソフトには、ユーザー辞書に単語を登録する機能があります。これを使えば、「」を簡単に呼び出すことが可能になります。
登録の流れ:
-
Web辞書(ウィクショナリーなど)から「」をコピー
-
テキストエディタに貼り付けて表示を確認
-
タスクバーの「あ」や「A」アイコンを右クリック
-
「単語の登録」を選択
-
単語欄に「」、よみ欄に「けん」などと入力し、登録完了

これで、以後は「けん」と入力すれば変換候補に「」が表示されるようになります。
方法③:IME(日本語入力システム)の設定変更
通常のIMEでは、新字体が優先的に出てくるようになっていますが、設定を変更することで旧字体も表示しやすくすることが可能です。
Windowsでの設定手順:
-
画面右下の「あ」または「A」を右クリック
-
「プロパティ」→「詳細設定」
-
「変換」タブ内の「変換文字制限をしない」にチェックを入れる
-
「OK」を押して設定完了

これにより、「兼」だけでなく他の旧字体・異体字も変換候補に現れやすくなります。
方法④:Unicodeを直接入力する
文字にはそれぞれ固有のコード(Unicode)が割り当てられており、これを利用して直接入力することも可能です。
文字 | Unicode | 入力方法(Windows) |
---|---|---|
兼(新字体) | U+517C | 「517C」入力後 Alt + X |
(旧字体) | U+517C + E0101 | 「517CE0101」→ Alt + X(要対応フォント) |
ただし、フォントや環境によっては正常に表示されないことがあるため、事前に確認してから使用することをおすすめします。
文字の違いを視覚で実感!「兼」と「」を比べてみよう

以下の比較は、フォントによって実際に異体字の見た目がどのように変化するかを示しています。
表記 | 上部構造 | 備考 |
---|---|---|
兼(新字体) | ノ+干 | 現代的で標準的な書体 |
(旧字体) | ハのような上部構造 | 旧来の書体で、歴史的資料向け |

PDFなどのフォント固定ファイルで表示確認を行うと、両者の違いがはっきりと見えるでしょう。
結論:旧字体を知ることで漢字の理解がより深まる
「兼」という字の背後にある異体字「」の存在は、単なる漢字のバリエーションではなく、文字の歴史や文脈、文化の層の厚さを感じさせてくれます。現代のデジタル環境でも、適切な設定と工夫を施すことでこうした旧字体を活用できるのです。
【ポイントまとめ】
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新字体「兼」と旧字体「」は見た目が似ているが、用途や表現力が異なる
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フォントや入力環境によっては旧字体が表示されないことも
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単語登録やIME設定、Unicode入力などを活用して入力可能
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旧字体を使いこなせば、文書表現に品格と深みが加わる
旧字体は面倒なものではなく、漢字文化を深く理解し活用するための“鍵”とも言える存在です。特に歴史文書や家系調査などに関心のある方は、ぜひこの知識を役立ててみてください。